山口地方裁判所徳山支部 昭和58年(ヨ)65号
債権者
石津信吾
債権者
舞田清春
債権者
和田勝
債権者
植田賢一
債権者
田畑幸男
債権者
岡野正夫
債権者
田中昭人
債権者
森次忠則
債権者ら訴訟代理人弁護士
吉川五男
同
小川純生
債権者
笠戸船渠株式会社
右代表者代表取締役
八木文夫
右訴訟代理人弁護士
廣沢道彦
同
山崎照夫
主文
一 債権者らが別紙配転表記載の各新職場に就労する義務の存在しないことを仮に定める。
二 申請費用は債務者の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 債権者らの申請の趣旨
主文一項と同旨
二 申請の趣旨に対する債務者の答弁
1 債権者らの本件申請をいずれも却下する。
2 申請費用は債権者らの負担とする。
第二当事者の主張
一 債権者らの申請の理由
1 当事者
(一) 債務者は、船舶の建造、修理等を業とし、下松市笠戸島江の浦七〇八番地に造船所(以下「笠戸造船所」という)を有する株式会社であり、笠戸造船所の現業部門には、新造船の建造を担当する造船部と既存船の修繕を担当する修繕部とがある。
(二) 債権者らは、いずれも債務者の従業員であり、笠戸造船所修繕部(以下単に「修繕部」という)に勤務していたものである。
(三) 債務者の従業員によって組織された労働組合として、全日本造船機械労働組合笠戸船渠分会(総評系。以下単に「分会」という)があったが、右労働組合は、昭和五八年四月二八日ころ、右分会と全国造船重機械労働組合連合会笠戸船渠労働組合(同盟系。以下単に「労組」という)に分裂し、二組合併存状態となっている。
(四) 債権者らは、いずれも分会に所属している。
2 配転命令
債務者は、昭和五八年一〇月四日、債権者らに対し、同月五日付をもって、別紙配転表記載のとおり、笠戸造船所造船部(以下「造船部」という)の各係へそれぞれ配置転換(以下「本件各配転」という)を命じる旨の意思表示をした(右各意思表示を以下「本件各配転命令」という)。
3 本件各配転命令の無効
本件各配転命令は、次の理由により、いずれも無効である。
(一) 配転命令権の濫用、信義則違反
(1) 業務上の必要性の不存在
債務者が本件各配転の理由とするところは、造船部では今後仕事量の増大により昭和五九年度には一七〇名ないし一八〇名の人員不足が生じる見込みであるが、修繕部では安定した工事量の確保が困難なので、修繕部から造船部へ本件各配転を含む三〇名の配転(以下これを「本件配転」という)をし、さらに不足する人員については、下請及び外注によって対処するというのである。
しかしながら、本件配転に業務上の必要性が存しないことは、次の事実からも明らかである。
(イ) 債務者の第九一期(昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日まで)及び第九二期(昭和五八年四月一日から同五九年三月三一日まで)、各営業報告書によれば、右各期間に、修繕部の売上高が約一〇億円減少しているが、造船部の売上高も三〇億円程減少しており、それぞれ約二〇パーセントずつ減少しているのであって、修繕部の売上高だけが特に減少したわけではない。
修繕部は昭和五八年度から同六〇年度まで約四〇億円の売上高をあげており、過去一〇年程の売上高と比較しても特に顕著に減少しているとはいえない。
そして、債務者主張のような両部門間の仕事量のアンバランスは以前にも幾度か生じたことがあり、そうした場合従来は、造船部の人手が足りないときは、新造船の仕事を修繕部にまわしたり、修繕部から造船部に人員を応援に派遣したりして対処してきた。逆に修繕部の仕事が多いときも、同様造船部に仕事をまわしたりして対処してきたのであって、今回の状況も従来の事例と全く同様であるから、配転をもって処理するべき必要性は何ら存しなかった。
(ロ) 債権者らを含む三〇名の配転の必要性について、債務者はその算定の根拠、即ち、造船部における各職種、例えば鉄工、銅工(管工または配管工ともいわれる。以下略)、溶接工、製缶工等がそれぞれ何工数必要であるところ、その現有工数が何工数であるから、何工数不足することになるというのか、また修繕部の各職種の現有工数が何工数であり、それが何工数まで削減可能かなどを何ら明らかにしていない。
(ハ) 債務者は、当初三〇名に対する配転を発表したが、後に健康上の理由によりうち一名の配転を撤回して、二九名について配転を命じ、右一名については補充の配転をしなかった。このことからすれば、果して三〇名の配転が必要であったかは、はなはだ疑わしいものというべきである。
(2) 人選の合理性の欠如
修繕部には本件当時約二〇〇名が所属していて、右三〇名のほかにも配転可能な者は多数存在していたから、債権者らを特に選んで配転すべき必然性は何らなく、他の者を配転することも充分可能であった。
しかるに、債権者舞田清春、同和田勝、同田中和人に対する本件各配転は、いずれも電気溶接工から銅工への異職種配転であり、後記(4)のとおり種々の不利益を伴うものである。
そうすると、右各配転は、右債権者らに対し、ことさらに不利益を負わせるものであって、その人選に合理性を欠くものというべきである。
(3) 不当な動機、目的(不当労働行為意思を除く)
前記のように必要性のない本件各配転を強硬に実施しようとする債務者の真の意図は、修繕部を下請化するとともに、将来造船部に余剰人員が生じたときは、人員整理、解雇等の合理化を実現しようとするものである。
(4) 債権者らが被る不利益
本件各配転は、遠隔地配転ではないとはいえ、債権者らに対し種々の不利益をもたらすものである。
債権者らは、従前の職場において、これまでに習熟してきた仕事上の知識、技能や築き上げてきた人間関係に基づき、職場序列上特定の地位を占めていた。例えば、債権者森次忠則は、従前の職場では作業リーダー(通称「ボーシン」)で、班長職への最短距離にいた。
債権者和田勝も、特殊溶接技能を有していて、従前の職場では有利な職場序列上の地位にあった。こうした職場序列は、ボーシン、班長、係長、課長等の昇進序列につながるものである。そして、他の債権者らももちろん同様である。
ところが、新職場への配転により、これらは一挙に覆える。職務内容が変り、ことに異職種間配転の場合には、また一から仕事上の知識や技能を習得しなければならず、新職場での序列も最下位から出発することになる。その他人間関係もあったりして、様々の不利益、苦痛を伴う。
本件のような現業職場での配転は、事務職系の職場での配転とは異なり、栄進につながるということはなく、かえって、新参者として昇級、昇格の成績査定に不利益が及ぶ可能性が大きい。
そのようなことから、配転対象職場の従業員の多くは、本件配転を嫌がり、配転対象者に選ばれることへの不安を抱いていたのである。
(5) 配転命令発令手続における労使慣行違反
(イ) 債務者の配転命令発令の手続については、従前から、非代替的職種についての配転でない限り(特に現業職においては代替的職種が多い)、配転対象者に対し事前に内示し、その同意を得たうえ、労働協約二二条(3)項(労働協約失効後も余後効ないし労使慣行としてなされてきた)による労使協議会において、事前に分会の意見を徴したのちに発令するという労使慣行が確立されていた。
(ロ) 右慣行は、昭和三七年ころからのものであり、例えば、昭和四七年ころの機構改革に伴う配転の際には、債務者はまず希望者を募って配転したのち、不足人員は従業員の抽せんによってこれを選定している。また昭和五三年の人員整理の際に、希望退職者が必要人員を大量に上まわり、各職場の人員に多数の過不足を生じたことからなされた配転においては、債務者は、各従業員から第一ないし第三の希望職場を聴取し、右希望に基づいて配転をしている。
従来配転をめぐる紛争がなかったのは、こうした公平な手続をふんだうえで配転発令がなされていたからである。
(ハ) 債務者は、本件各配転命令の発令に際し、右のごとく労使慣行となっていた公平な配転手続を全く無視して、配転対象者の従業員らに対し事前に何らの交渉もすることなく、昭和五八年九月二六日、三〇名の本件配転を一方的に公表し、右従業員らの同意のないまま、前記のとおり本件各配転命令の発令を強行したものである。
(二) 不当労働行為
(1) 債権者らに対する不利益取扱い
(イ) 債務者は、本件配転と同時に、造船部、修繕部の双方につき班の編成替えを行なった。本件配転及び右の班編成替えによる分会及び労組の各組合員の、本件配転対象職場における異動状況は、別紙異動一覧表(略)(一)、(二)記載のとおりである。
(ロ) これによって明らかなとおり、修繕部の本件配転対象職場の分会組合員は一〇名であるところ、そのうち八名までも配転対象者に選ばれている。また、三〇名の配転対象者のうち異職種配転は五名であるが、そのうち三名が分会組合員である。
(ハ) 班は日常的な作業の最小単位であり、班に所属する従業員間には日常的に人間的接触が保たれているので、従来班の編成替えは、特にそれを必要とする合理的な理由がある場合に限りなされていたものである。
(ニ) しかるに債務者は、本件配転と班編成替えとを巧みに操作し、右一覧表(一)、(二)記載のとおり、分会所属組合員を各班に一、二名ずつに意図的に分散させ、孤立化させた。唯一の例外は、造船部内業係加工職場の藤村班に分会組合員が四名いたところ、うち三名のみからなる班を新設したことであるが、右新設班はプレス加工作業担当であり、プレス加工というのは、従来から嫌われていて職場内の回り持ちで担当されてきた作業なのである。
(ホ) そして債務者は、各班長に「暫定措置者作業日誌」を配付し、分散、孤立化させられた分会組合員につき、休憩時間中を含めた行動の監視と報告を命じた。
分会組合員を分散、孤立させれば、各班長はその監視が容易になり、債務者は、この監視体制により分会組合員が誰と接触しているかをいちはやく察知し、その者に警告をして接触を断たせ、分会の組織拡大の動きを封じることができる。
その結果、債権者ら分会組合員は、本件各配転及び班編成替えによる異動先の職場で、人間関係に悩み、ますます孤立化し、債務者からの切り崩し工作も容易になっていくのである。
(ヘ) 本件各配転及び班編成替えによる異動は、債権者らに対し右のような精神的不利益ないし組合活動上の不利益を負わせるものであり、債務者がそのような異動を企図した直接の動機は、債権者らが分会組合員として組合活動をしていることにあることは明らかであるから、本件各配転は、債権者らに対する不利益取扱いとして、不当労働行為にあたるものというべきである。
(2) 分会の組合運営に対する支配介入
(イ) 分会は、従来、債務者における唯一の労働組合として、その組織の力を背景に前記のような配転手続についての労使慣行を確立していた。
(ロ) 債務者は、昭和五五年春ころ、分会の上部団体である総評系の全日本造船機械労働組合(以下「全造船」という)の労働運動の路線に反対する従業員により、分会内に非公然組織である「民主化会議」、「みちしお会」が結成されて以来、これを援助、育成してきたが、昭和五七年の分会役員選挙で「みちしお会」会員が役員に選出されると、これと結託して、分会を全造船から脱退させ、同盟系の全国造船重機械労働組合連合会へ加盟させようとし、その結果、前記のとおり昭和五八年四月二八日分会は分裂し、債務者に協調的な同盟系の労働組合である「労組」が結成され、二組合併存という不幸な事態になった。
(ハ) 右分裂により分会の組織力が低下し、労使間の力関係に変化が生じたことから、債務者はこれに乗じ、分会組合員に対する切り崩し工作や差別取扱いをしたのち、本件各配転の強行実施により、一気に配転についての前記労使慣行を破棄しようと企てたものである。
(ニ) 労働組合がその所属組合員に対する不当な配転をチェックする権能を持つことは、組合の力を強めるために重要であり、不当にこの権能を奪うことは、労働組合運営に対する支配介入として、不当労働行為にあたるものというべきである。
4 保全の必要性
債務者は、本件各配転命令の発令を強行実施し、これに従わない者に対しては処分をする旨言明している。債権者らは、いずれも本件各配転命令の効力を争っており、債務者から、不当な処分が何時、如何なる形でなされるかも知れないため、勤務すべき職場も不安定で、極めて不安な状態におかれている。債権者らのこのような不安定な地位は、本件各配転命令の効力を停止することにより、緊急に除去される必要性の大きいものというべきである。
よって、本件仮処分申請に及んだ。
二 申請の理由に対する債務者の認否
1 申請の理由1の事実のうち
(一) (一)の事実は認める。
(二) (二)の事実は認める。
(三) (三)の事実は認める。
(四) (四)の事実は知らない。
2 申請の理由2の事実は認める。
3 申請の理由3の事実のうち
(一)(1) (一)(1)の事実のうち、冒頭の事実は認めるが、(イ)(ロ)の事実は否認する。(ハ)の事実のうち、債務者が本件配転発表にかかる三〇名のうち一名の配転を撤回し、二九名について発令したことは認めるが、その余は争う。
(2) (一)(2)の事実は否認する。
(3) (一)(3)の事実は否認する。
(4) (一)(4)の事実は否認する。
(5) (一)(5)の事実のうち、(イ)の事実のうち、労働協約二二条に分会の意見を徴する旨の規定があることは認めるが、その余は否認する。(ロ)の事実のうち、昭和五三年の人員整理の際の異動につき、従業員の希望を聴いたことは認めるが、その余は否認する。(ハ)の事実のうち、本件配転に際し事前に配転対象者の同意を得なかったことは認めるが、その余は否認する。
(二)(1) (二)(1)の事実のうち、(イ)の事実は明らかに争わない。(ロ)の事実のうち、本件配転対象職場の分会組合員一〇名中八名につき本件各配転がなされたことは明らかに争わないが、その余は否認する。(ハ)ないし(ヘ)の事実は否認する。
(2) (二)(2)の事実のうち、(イ)の事実は否認する。(ロ)の事実のうち、分会と労組の二組合が併存していることは認めるが、その余は否認する。(ハ)、(ニ)の各事実は否認する。
4 申請の理由4の事実のうち、債権者らが本件各配転命令の効力を争っていることは認めるが、その余は否認する。
三 債務者の主張
1 被保全権利の不存在
(一) 職種、勤務場所を特定する合意の不存在
(1) 一般に労働契約においては、特別な合意がない限り、労働者は、自己の提供する労働力の使用を包括的に使用者に委ねるものであり、使用者は、契約上労働力の処分権を取得し、これに基づいて具体的な労働の種類、場所、態様等を個別的に決定し、配転によってこれを変更することができるものと解される。従って、勤務場所又は職種の変更である配転は、契約の履行過程として使用者の命令によって実現されるものであるから、そこに権利又は法律上の利益の観念をいれる余地はない。
(2) 例外的に、合意に基づき特殊の職種等に勤務している場合には、その職種に勤務することにつき法律上の利益を有するといえることもあろう。
しかし、本件の場合、債権者らとの労働契約に際し、修繕部に勤務する旨の労働の場所、職種等を限定する合意はなされていない。のみならず、債務者の就業規則五条には、会社は業務の都合により職種等の変更を命ずる旨が規定されている。
従って、債務者は、その業務上の必要性に基づき、債権者らに対し自由に配転を命じ得るものである。
(二) 業務上の必要性の存在
(1) 造船部においては昭和六〇年末までの受注が確定しており、工数的には従来以上の人員を必要とし、昭和五九年には一七〇ないし一八〇名の人員不足を来すことが予想された。これに対し、修繕部は、海運不況により修繕船隻数が減少してきており、受注競争の激化により安定した仕事量の確保は困難となっていて、繁閑は避けられず、採算も悪化し苦しい状況にあった。このことは、債務者だけのことではなく、同業他社も全く同様であった。
(2) 本件は、債務者において、新造、修繕各部の仕事量を勘案し、新造船工事の完遂のため効率の良い人員配置を計画し、即戦力となる優秀な従業員を造船部に配置転換したものであり、修繕部の直接工約一八〇名のうち現状を維持しつつ造船部へ出せる人員と造船部の必要人員との接点として三〇名を選んだものである。
(3) 右のとおり、本件配転は債務者にとって業務上の必要性の極めて大きいものであって、分会に対し、五回の交渉において新造船計画の大綱の資料も示し、詳しく説明も尽している。
(三) 人選の合理性の存在
(1) まず修繕部については、仕事の性質上人員を出せる職場から、造船部の必要職場に無理なく異動できる同一職種又は類似職種の者を配転することとし、現状を維持しつつ配転できる職種、員数を決め、人選は本人の技量、適性を総合的に考慮して決定した。特に今後はタンカーの造船が増加し、銅工職場ではパイプ溶接技術が必要となるので、右技術習得の有無が人選の基準となった。
そして、次に造船部側につき、今後の仕事量に応じ、人員の不足職場を決定し、そこに右人選にかかる人員を割り当てたものである。
(2) 債権者舞田ら三名は、異職種への配転である旨主張するが、造船所の仕事は全て溶接が基本をなすものであり、右三名は電気溶接工から銅工への配転であるが、銅工は、パイプと架台の加工、取付及び溶接がその仕事であり、その中でもパイプの容接が最も重要な仕事なのであって、右三名は、その溶接技術を活かすために選ばれたのである。
(3) 右のとおり、本件配転は、全て同一又は類似職種間のものであって、その人選も合理性のある適切なものである。
(四) 人事権の濫用と目されるほどの不利益の不存在
(1) 本件各配転は、同じ造船所内での異動であり、遠隔地配転ではないのであって、債権者主張のような不利益は、配転によって通常生じる事態であり、そのようなことだけでは本件各配転が人事権の濫用に当たるとはいえない。
(2) 本件各配転は、経済的にはむしろ安定した職場への異動であり、債権者和田勝、同田中昭人については、配転後の方が班平均より残業が多く、収入も増えている。
(五) 労使慣行の不存在
(1) 内示して同意を得たうえで配転命令を発令するという労使慣行は存在しない。配転に気持良く応じてもらうために、職制から事情説明あるいは事前接触といったものが行われていたかも知れないが、債権者らは、これを本人の同意を求めていたものと誤解しているのであろう。
(2) 債権者らは昭和五三年当時のことを主張するが、このときは未曽有の造船不況のため債務者が経営危機に陥り、四七〇名もの大量の希望退職を募っていたときであって、職場間に大量の人員の過不足が生じ、その早急な是正のため、事務職から現業職への異動などがあったので、事前に希望を聴取したことはあるが、このような異常時の事例は到底労使慣行とはいえない。
以上のように債務者は一貫して配転に同意を求めておらず、また一社一工場なのであるから、本件配転は、単なる配置換え、班編成替えの延長線ととらえるのが正確である。
(3) 債務者は、本件各配転につき、併存二労働組合と誠意をもって交渉した。労組は三回の労使協議会でこれを了承したが、債権者らが所属する分会は、同一資料を示して五回も労使協議会を持ち、十分論議を尽くしたのに、従来組合との間で協議の対象になったことのない、班編成の話まで持ち出し、反対のための反対に終始したため不調に終ったものである。
(六) 不当労働行為の主張について
(1) 本件配転は、これまで主張してきたように業務上の必要性によるものである。造船部の人員不足と修繕部の採算悪化は、債務者の営業報告書をみれば歴然としており、このことは債務者のみでなく、同業他社も全く同様である。債権者らは、分会の弱体化を狙ったとか、民主化会議、みちしお会と結託したとか主張するが、何ら証拠に基づかないものである。
(2) 本件配転は、労働組合の問題とは全く関係のないことである。孤立化というけれども、もともと分会組合員の員数は全従業員の数パーセントに過ぎない。そして本件配転に際して、債務者会社全体では一二九名も異動しているのである。
2 保全の必要性の不存在
債権者らは、本件各配転に反対してストライキに入ったので、債務者としても処分は行ってはいないものである。また暫定的ではあるが、配転先の新職場で就労しており、緊急性は全くない。従って、保全の必要性は存しないものというべきである。
第三疎明関係
当事者双方の疎明資料の提出、認否は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当事者(申請の理由1)
申請の理由1(当事者)の事実のうち、(一)(債務者が船舶の建造、修理等を業とし、笠戸造船所を有する株式会社であり、同造船所の現業部門には造船部と修繕部があること)、(二)(債権者らが債務者の従業員で、いずれも修繕部に勤務していたものであること)、(三)(債務者の従業員の労働組合である分会が、昭和五八年四月二八日ころ、労組と分会に分裂し、二組合併存状態になったこと)の各事実については、当事者間に争いがなく(もっとも、債権者らのいうところの「分裂」が、組合員の集団脱退と新組合の結成による二組合併存―その場合旧組合は非脱退者によって組織される残存組合として存続する―とは特に区別された、旧組合の分解及びこれと同一性のない二個の新組合の成立―その場合旧組合は消滅する―との意味で用いられているのかどうかは必ずしも明らかではないが、現在併存している労組と分会のいずれかが旧分会と同一性を有するかどうかは本件の争点とは直接関係がないから、本件においてはその点についての判断をしない)、(四)の事実(債権者らが分会に所属していること)は、(人証略)の各証言及び弁論の全趣旨によって一応これを認めることができる。
なお、(証拠略)によれば、債務者の組織の概要及び造船部、修繕部の組織の詳細は、別紙組織表のとおりであり、笠戸造船所内の造船部、修繕部の配置状況は、別紙工場平面及び付近図(略)のとおりであることが、一応認められる。
二 配転命令(申請の理由2)
申請の理由2の事実(債務者が、昭和五八年一〇月四日、債権者らに対し、本件各配転命令を発令したこと)は、当事者間に争いがない。
三 配転命令権の濫用、信義則違反(申請の理由3、(一))
(証拠略)によれば、債務者の就業規則第五条には、債務者は業務の都合によって転勤又は職場、職種の変更を命じることがある旨の定めがあり、(証拠略)によれば、債務者の造船所は笠戸造船所だけであるが、従来からその内部において、従業員特に現業部門の造船部、修繕部の従業員につき、両部門間の配転を頻繁に行っていることが、それぞれ一応認められ、他方、債権者らにつき、債務者との間の労働契約締結に際し、特にその職場及び職種を限定する合意がなされたとの主張はない。
したがって、債務者は、業務上の必要に応じ、その裁量により債権者らに配転を命じることができるものというべきである。
しかしながら、配転は、勤務場所の変更(転勤)を内容とする場合には、家族との別居を余儀なくされるなど従業員に大きな生活上の不利益を被らせるものであり、単に職場、職種の変更を内容とする場合でも、これまで習熟してきた仕事上の知識、技能を活かせなくなり、新たな仕事上の知識、技能の習得を始めなければならなくなる等、従業員に仕事上種々の不利益を被らせるものであるから、債務者の配転命令権の行使は、おのずから合理的な制限に服すべきものであり、この制限を超え権利の濫用又は信義則違反となるときには、その配転命令は効力を生じないものというべきである。
そこで、本件各配転命令が合理的な制限を超え、権利の濫用又は信義則違反に当るかどうかについて、その判断要素と考えられる、配転の必要性、人選の合理性、不当な動機、目的(不当労働行為意思を除く)の存否、債権者らが被る不利益、配転命令発令の手続違背につき、以下順次判断する。
1 本件各配転の業務上の必要性(申請の理由3、(一)、(1)の事実)について
(一) (証拠略)によれば、申請の理由3、(一)、(1)、(イ)の事実のうち、債務者は、第九一期(昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日まで)及び第九二期(昭和五八年四月一日から同五九年三月三一日まで)の各営業年度の間に、修繕部の売上高が四九億七五〇〇万円から三九億七一〇〇万円に約一〇億円減少したが、造船部の売上高も一五七億二五〇〇万円から一二六億六六〇〇万円に約三〇億円減少しており、ともに約二〇パーセントずつの減少であって、修繕部の売上高だけが特に減少したわけではないこと、造船部、修繕部間の仕事量と配置人員との一時的なアンバランスは従来何回も生じたことがあり、その都度両部門間で必要に応じ相互に人員を応援に派遣したりしてこれに対処してきたものであることの各事実は、一応これを認めることができる(その余の事実は本件全疎明資料によっても、なおこれを一応認めるに足りない)。
また、(証拠略)ならびに弁論の全趣旨によれば、申請の理由3、(一)、(1)、(ロ)の事実、即ち、債務者は、三〇名の本件配転を必要とする数字的根拠につき、造船部では鉄工、銅工、溶接工等の直接工の各職種ごとに何工数の不足が見込まれ、修繕部では各職種ごとに何工数の削減が可能であるかについて、具体的な数字を何ら明らかにしていないことが一応認められる(<証拠略>によれば、債務者は、造船部所属の直接工及び下請工の全体を通じての不足人員算出の根拠を示したにとどまり、修繕部については、削減可能人員算定の根拠さえも明らかにしていないことが認められる)。
そして、申請の理由3、(一)、(1)、(ハ)の事実のうち、債務者は当初三〇名につき本件配転を発表したが、後に健康上の理由によりうち一名の配転を撤回して二九名について配転を命じ、右一名については補充の配転をしなかったことは、当事者間に争いがない。
(二) しかしながら、前記疎明資料のほか、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、当時債務者は、造船部においては二年先の昭和六〇年末までの受注を確保していて、前記のような当時の造船部所属の直接工及び下請工の全体を通じての不足人員を算出すると、債務者の計算では約一八〇名の人員不足が見込まれたこと、分会の計算方法によると人員不足はさらにふえて約二五〇名となること、他方、昭和五八年四月一日時点において、三菱造船、石川島播磨重工、日立造船等大手七社を除く、債務者と同程度の従業員数の中手造船会社の修繕部における直接工と下請工がそれぞれ占める各割合をみると、他社の下請依存率はおおむね三〇ないし四〇パーセント台であるのに、債務者のそれは一八パーセントと他社に比し極端に低いこと(中手各社中、一〇パーセント台は他に一社のみであり、二〇パーセント台でさえ一社もない)、逆に大手七社の修繕部の下請依存率はおおむね一〇ないし三〇パーセント台であるから、債務者の修繕部の下請依存率は大手七社なみであること、その大手の一社である川崎重工も、債務者と同様、造船部は昭和六〇年前半までの仕事量を確保し、最近では残業も出始めている一方、修繕部は海運不況の長期化によりアイドル(遊休人員)も出ているため、昭和五八年一〇月に、修繕部の余剰人員を造船部に配転する方針を打ち出していること、債務者の修繕部においても、川崎重工と同様海運不況により仕事量は減少し、前記認定のとおり採算も悪化し、アイドルも出していたこと、このことは中手各社においても同様であって、修繕部の下請依存率の増大はほぼ全国的な傾向にあったものであること、債務者は、右の如き全国的傾向にそって、アイドルの固定費の削減をはかるべく、修繕部直接工の削減と造船部直接工の不足見込人員の補充を兼ねて、修繕部直接工の若干名を造船部に異動させることとし、修繕部の現状を維持しつつ造船部に異動させ得る限度として、三〇名(最終的には二九名。以下略)の本件配転をしたものであること、債務者の修繕部直接工の人員は当時約一八〇名であって、三〇名削減しても、なお同程度の規模の同業他社の修繕部直接工の人員に比して、まだかなり多く、三〇名の配転が必要以上に多すぎたものとはいえないことの各事実が一応認められる。
(三) そうすると、右認定の如き海運不況に基因する修繕部の下請依存率の増大という全国的傾向及びこれに伴う右認定の事実関係の下においては、造船部になお当分の間増員を要する仕事量がある限りにおいて、修繕部の直接工を可能な範囲で造船部に(単なる一時的応援ではなくて)配転を命じることは、企業の維持、採算の見地からすれば、必要性、合理性のあるものというべく、債務者が債権者を含む三〇名についてなした本件配転も、そのようなものとして見る限りにおいて、業務上の必要性、合理性はあるものというべきである(それはまさに分会の主張する「合理化」の一環に外ならないのであろうが、まさにそれが「合理化」の一環であるが故に、業務上の必要性、合理性はこれを肯定せざるを得ないであろう。)。
前記認定の申請の理由3、(一)、(1)、(イ)、(ロ)、(ハ)中の各事実は、右の諸事実関係の下では、右判断を覆えすに足りない。
2 本件各配転の人選の合理性(申請の理由3、(一)、(2)の事実)について
(一) (人証略)によれば、本件配転当時、修繕部の直接工のうちに、造船部で補充を必要としていた溶接工、鉄工、銅工等の職種の技能者は、本件配転対象者とされた三〇名の二倍位はいたことが認められるから、債権者らを特に選んで配転すべき必然性はなく、他の者を配転することは充分可能であったことが一応推認される。
また(人証略)及び債権者森次忠則本人の供述によれば、債権者舞田清春、同和田勝、同田中昭人については、いずれも電気溶接工から銅工への異職種配転であることが、一応認められる。
(二) しかし、(人証略)の証言によれば、銅工はパイプの製作、取付、加工作業をするものであるが、その作業は当然溶接作業をも伴うものであること、したがって、溶接工と銅工は純然たる異職種ではなく、むしろ類似の職種であること、造船部側から、今後はタンカーの造船受注増加が見込まれるので、銅工に溶接経験者が欲しい旨の要望があったこと、そのため、銅工の人選にあたっては、溶接技術習得の有無が基準となったことの各事実を一応認めることができる。
(三) そうすると、同一職種間の配転であるその余の債権者はもとより、右債権者三名についても、造船部が必要とする職種及び技能者の基準には、個々的にみてそれぞれ合致しているものと一応認めることができる。
また、人選の合理性は、余人をもっては代え難いというほど高度のものでなければならないとするのは相当でないというべきであり、ある者が一定の合理的な基準に合致している限り、他にも基準に合致する者がいても、それらの基準に合致している者の中から誰を選ぶかは、債務者の裁量に委ねられているものというべきであるから、その者を選んでも人選に合理性を欠くとはいえない。
してみれば、本件配転の前記人選の基準は一応合理的なものと認められるから、この基準に一応合致する債権者らの本件各配転の人選自体も合理性を欠くとはいえないものというべきである。
3 本件各配転における不当な動機、目的(不当労働行為意思を除く)の存否(申請の理由3、(一)、(3)の事実)について
前記三、1、(二)に認定の債務者及び造船業界全体の諸状況からすれば、将来も海運不況が続き、造船部の受注も減少して余剰人員を生じた場合、今度は造船部における人員整理、解雇等の事態に立ち至るべきことはみやすい道理というべきであるから、本件配転は債権者ら主張の「合理化」実現への布石と一応認められなくもない。
しかし、本件配転につき業務上の必要性、合理性が認められることについては先に判断したとおりであり、業務上の必要性、合理性が認められる場合に、「合理化」であるということは、それ自体何ら不当なものではないというべきである。
4 本件各配転によって債権者らが被る不利益(申請の理由3、(一)、(4)の事実)について
(一) 前記疎明資料及び債権者森次忠則、同和田勝各本人の各供述によれば、債権者森次忠則は、本件配転前は、修繕部機修課第二機関係二班に所属し、入社以来配管工として一四年余の溶接経験を有していて、班長の下にあって通称「ボーシン」と呼ばれ、同班所属の工員に対する作業リーダーの地位にあったものであるが、本件各配転による新職場である造船部船装課船装係は、同一職種ではあるものの、修繕部と異なり設計図に基づいて作業をしなければならず、従来その点についての経験を欠いていたため、新職場においてはボーシンになれないのはもちろん、経験の乏しい新入りとして右の新しい知識、技能を習得していかねばならないこと、新職場は知らない人ばかりで、日常のあいさつはするものの人間関係もぎくしゃくしていて孤立感に悩まされていること、債権者和田勝は、本件各配転前は、修繕部船修課第一船体係三班に所属し、入社以来電気溶接工として九年余の経験を有していた者であるが、本件配転による新職場である造船部機電課管装係外業一班は、パイプの取付が担当職務であって、前記認定のように類似職種ではあるものの、これまでに習得した溶接技術を充分に活かし切れないこと、同班では分会に所属している者は同人だけで他はすべて労組に所属しており、両組合間の対立感情のため、仲間はずれにされることはないものの、他の班員とはあいさつもなくあまり話もしないことの各事実を一応認めることができる。
(二) しかし、(証拠略)によれば、別紙工場平面及付近図のとおり、笠戸造船所はおおむね東西に四四〇ないし四五〇メートル、同南北に二四〇ないし二五〇メートルの広さであり、造船部の船台、工場は大体その東側半分に、修繕部のドック、工場は大体その西側半分に、それぞれ配置されていること、中央南側のやや東寄の個所にある現場事務所から、造船部の職場までは、徒歩で近い個所までは一分、遠い個所で七、八分、修繕部の職場までも、徒歩で一、二分から一〇分余で行けることが一応認められる。
(三) そうすると、本件各配転は、右笠戸造船所内の修繕部から造船部への異動であって、住居変更を伴うような勤務場所の変更を内容とするものではないから、それ自体としては、債権者らに対し、直ちに、何らかの生活上の不利益を被らせるものではないし、また組合活動上の不利益を被らせるものでもない。
そして、前記のとおり、債権者らにつき労働契約において職種を本件配転前のものに限定する旨の合意が成立していない以上、右に認定のような、本件各配転により債権者らが被った仕事上の不利益は、配転によって常に多かれ少なかれ生じる事態であって、債権者らにおいても入社時に当然予想すべきことというべく、労働契約上受忍すべき範囲内に属するものというべきである(前記疎明によれば、造船部においては仕事量が安定しているが、修繕部においては仕事量が一定せず、時期によって繁閑の差が生じるので、残業手当等給料面では、むしろ造船部の配転先の職場の方が結果的に有利であったことが一応認められる)。
5 本件各配転命令発令手続における労使慣行違反(申請の理由3、(一)、(5)の事実)について
(一) (証拠略)、弁論の全趣旨によれば、申請の理由3、(一)、(5)の(イ)、(ロ)、(ハ)の各事実のうち、次の事実、即ち、本件配転当時、債務者とその従業員、特に造船部及び修繕部の従業員及びその所属組合との間には、配転命令の発令は、まず債務者において事前に配転候補者の従業員に内示し、同意が得られない場合は順次他の候補者に内示をして、その同意を得たうえで、労使協議会を開く等により所属組合の意見を徴し、所属組合において配転候補者の真意を確認する等してこれを了承した後に、発令日を定めて公表し、発令をするという手続をふむ労使慣行が存在しており、従来内示に同意をしなかった者に対し配転を強行した事例はなく、まして内示もしないで一方的に公表・発令し、配転を強行した事例はなく、それ故、従来配転に関する紛争はなかったこと、昭和五一年三月三一日に債務者と分会との間に締結された労働協約の二二条には、債務者は、分会組合員の出向、転勤、異動については、分会の意見を徴してきめる旨の規定があり(右規定の存在については、当事者間に争いがない)、六六条には、債務者と分会とは組合員の労働条件に関する協議の円滑と会社業務の活発な運営に資するため労使協議会を設ける旨の規定があり、従来債務者は、労使協議会において配転についての分会の意見を徴していたこと、右労働協約は昭和五五年六月末日に失効したが、その後も配転に際し労使協議会を開き、配転候補者の所属組合の意見を徴することは、労使間の慣行として引き続き行われてきたこと、本件配転に際し、債務者は、従来からの前記労使慣行に違背し、三〇名の配転候補者に対し事前に内示をせず、したがってもちろんその同意を得ることなく(事前に同意を得なかったことについては、当事者間に争いがない)、労組、分会両組合に労使協議会開催を申し入れ、昭和五八年九月一七日に開かれた各第一回労使協議会(労組との間では午前一一時から正午まで、分会との間では午後一時から同二時まで、各開催)においても、同月二二日に開かれた分会との間の第二回労使協議会においても、本件配転の業務上の必要性の説明に終始し、今回の配転は本人の意見を聞かず、指名でやると称して、配転候補者の氏名を明らかにすることを拒み、同月二六日午前一〇時から同一一時までの間開催された労組との第二回労使協議会において、初めて本件配転にかかる三〇名の氏名を明らかにしたが、同日午後一時から開かれることが予定されていた分会との間の第三回労使協議会をまたず、したがって、右三〇名の配転についての分会の意見を徴することなく、右労組との第二回労使協議会終了直後の同日午前一一時に右三〇名の氏名を社内に公表したこと、債務者は、右公表後である同月三〇日及び同年一〇月三日に各開催された分会との第四、第五回労使協議会において、本件配転についての分会の意見は徴したけれども、債権者ら八名については、その同意を得ないまま、前記のとおり同月四日右三〇名のうち二九名につき本件配転命令を発令したこと、債務者は、本件配転以後の配転に際しては、再び、事前に内示し、同意を得、所属組合の真意確認、配転了承を経て公表、発令するという前記労使慣行にしたがっており、それ故、本件配転以後は配転に関する紛争は生じていないことの各事実を一応認めることができる。
債務者の造船部機電課長である証人北川敏治は、右機電課においては、従来配転に際し、遠隔地配転の場合以外は、本人の意向を聞くことなく内部で決定したうえで内示し、その際に意向は聞くが、断られたことはなく、そのまま発令している旨証言し、また当時債務者の総務部労務課長であった証人山本幸夫も、従来遠隔地配転及び極端な異職種配転の場合を除き、事前に意向を打診することなく内部で決定したうえで内示をしており、内示に対する返事を聞いて配転をやるか、やらないかを決めるような労使慣行はない旨証言している。
しかし、弁論の全趣旨によって真正に成立したと認められる甲第一九号証(労組執行部作成の昭和五八年九月一九日付の宣伝ビラ)にも、前記の労組との第一回労使協議会において、債務者が今回の配転は「指名でやらせてもらいたい」旨申し入れたとの記載があり、右山本証人も右の申入れの事実を認める趣旨の供述をしている。
そうすると、「指名」の語句が、経験上、指名解雇等相手方の意思を考慮しない一方的な人選の決定を意味するものとして用いられていることからすれば、右の事実は、本件配転が従来のやり方と異なり、債務者の一方的な人選によってなされたものであること及び従来は本件配転のごとき「指名」にはよらない配転、即ち従業員の意思を無視した一方的なものではなく、従業員に対する事前の意向打診を経た配転がなされていたことを一応推認させるものであって、右推認事実に照らすと、前記各証言はたやすく信用し難いものというべきであり、他に前記認定を覆えすに足りる疎明はない。
(二) 右のとおり、本件配転は、労使慣行となっていた「候補者に対する事前の内示、候補者の同意、所属組合に対する徴意見、公表、発令」という一連の手続をまったく無視し、一方的人選のうえ直ちに公表してしまったものであり、しかも右のごとき手続違背を正当化するに足りるべき特段の事情について、債務者は何らの主張、疎明もしないのであるから、債務者の本件配転命令は、その手続違背の程度がはなはだしい点において、配転命令権の濫用、信義則違反にあたるものといわねばならない。
債務者は、昭和五三年の造船不況に際し四七〇名もの大量希望退職を募った際の配転において、事前に従業員の希望を聴取した事実を認めつつ(右事実は当事者間に争いがない)、右は大量退職により生じた各職場間の大量の人員の過不足という異常事態を早急に是正するための配転の事例に過ぎないとして、前記の労使慣行の存在を否定する。しかし、もしそうだとすれば、右のごとき異常な、緊急を要する事態においてさえ、「指名」による配転をしなかったのに、大量の希望退職の募集もなく、右のごとき異常な、緊急を要するような事情は何ら存しない本件配転において、何故にあえて「指名」による配転という方法をとったのか、むしろ逆にその理由が明らかにされるべきである。そして、前記のとおりその理由が何ら明らかにされないということは、それ自体、本件配転命令における債務者の不当労働行為意思の存在を推測させるものといわねばならない。
債務者は、分会との間に本件配転につき充分誠意をもって交渉した旨主張し、(証拠略)によれば、債務者は、分会との間に、前記認定の第三回労使協議会の後、約一ケ月間に八回、合計一一回の労使協議会を開いて本件配転につき交渉をもったこと(労組は、本件配転命令発令の前日である昭和五八年一〇月三日開催の第三回労使協議会で、所属組合員の本件配転を了承)が一応認められるが、本件配転のように、いきなり一方的指名の公表をしてしまった場合には、経験上これが撤回される可能性は極めて小さなものとなってしまうことは明らかであるから(現に、本件配転においても、健康上の理由により一名について撤回がなされただけである)、公表、発令の後になって多数回労使協議会を開いたからといって、前記のごときはなはだしい手続違背の瑕疵が、それによって治ゆされたものということはできない。
四 不当労働行為(申請の理由3、(二))
1 債権者らに対する不利益取扱い(申請の理由3、(二)、(1)の事実)について
(一) 申請の理由3、(二)、(1)、(イ)の事実(本件配転及びこれと同時になされた班の編成替えによる分会、労組各組合員の異動状況は、別紙異動一覧表(一)、(二)記載のとおりであること)及び同(ロ)の事実のうち、本件配転対象職場の分会組合員一〇名中八名につき本件各配転がなされたことについては、債務者は明らかに争わないから、民訴法一四〇条一項により、これを自白したものとみなす。
そうすると、右一覧表(二)によれば、修繕部の本件配転対象職場の従業員数は、船修課第一船体係四二名、同課第二船体係二三名、機修課第二機関係一二名の計七七名で、うち分会組合員が一〇名、その余は労組組合員であり、、分会組合員は右三係の従業員中約一三パーセントに過ぎないから、右七七名中から分会、労組両組合の右人数割合に応じ公平に三〇名を選ぶとすれば、分会組合員からは三〇名の一三パーセントにあたる約四名で足りるところ、本件配転は分会組合員右一〇名中八名を配転対象者としており、分会組合員は人数比の二倍も配転対象者とされていること、さらに同表によれば、分会組合員右一〇名のうち九名までが右第一船体係に所属しており、同課第二、第三船体係には分会組合員は一人も所属していないものであるところ、船修課の本件配転対象者二六名中、二五名が右第一船体係所属であり、残一名が第二船体係で、第三船体係二〇名からは一人も対象者を出していないが、第二、第三船体係所属の従業員につき特に配転に支障があったとの疎明は何らないのであるから、もし右第一ないし第三船体係従業員計八五名から、右のように第一船体係に片寄らず、かつ両組合の人数割合に応じ公平に二六名を選ぶとすれば、分会組合員は右八五名中九名で約一〇・六パーセントであるから、二六名の一〇・六パーセントである約三名が選ばれるべきであるのに、分会組合員は右船修課第一船体係所属九名中七名までが本件配転対象者とされていること、同じように、同表によれば機修課第二機関係一二名中、分会組合員は一名で約八パーセントに過ぎないから、右一二名中から両組合の人数割合に応じ公平に本件配転対象人員四名を選ぶとすれば、四名の八パーセントは一名にはるかに及ばないのに、本件配転は右一名の分会組合員を配転対象者としていること、右各事実からすれば、もし本件配転対象人員三〇名を両組合の人数割合に応じ公平に選んでおれば、分会組合員の配転は三名か四名となるべきものであったことがそれぞれ計数上明らかである。
(二) そうしてみると、本件各配転は、全体としてこれをみれば、債権者ら分会組合員に対する不利益取扱いにあたるものといわねばならない。
特に、前記のように船修課の配転対象人員二六名中、二五名までも、同課所属の分会組合員九名全員が所属する第一船体係だけから選出し、右分会組合員九名中の七名まで選出するという極端に片寄った人選をしたことについては、これを首肯するに足りる特段の事情の疎明は何らないのであるから、右七名の債権者らに対する本件各配転は、右のごとき人選の片寄りの極端なこと自体からして、分会組合員である右七名に対することさらの差別的取扱いであることは明らかなものというべきである。
また、単に配転された人数という量的な面ばかりでなく、質的な面からみても、前記一覧表(一)、(二)、前記山本、竹野各証言及び弁論の全趣旨によれば、本件配転のうち、溶接工から銅工への、前記のとおり「類似」職種とはいえ異職種間の配転は五名であるが、そのうち三名は分会組合員であること、右類似職種のうち、純然たる銅工職場である造船部機電課管装係に配転された二名は、いずれも分会組合員であること、本件配転と同時になされた班編成替えにより、造船部船殻課内業加工係に班員三名のプレス加工班が新設されたが、プレス加工の作業は従来従業員から嫌がられていたため、順番を決め交代でこれにあたっていたものであるところ、右班編成替えにおいて、右班員三名にはすべて分会組合員があてられたこと、本件各配転により債権者ら八名中三名がそれぞれ造船部の分会組合員のいない班に一人ずつ分散させられ、また右班編成替えにより、修繕部の残存分会組合員七名中二名、造船部の分会組合員一六名中三名が、それぞれ分会組合員のいない班に一人ずつ分散させられたこと、以上の分会組合員に対する不利益取扱いの事実が一応認められる。
(三) 右認定のごとき、本件配転及びこれと同時になされた班編成替えにおける不利益取扱いは、同盟系の労組が労使協調路線をとっているのに対し、総評系の分会が資本と対決する姿勢をとっていること(弁論の全趣旨により明らかである)からすれば、それらの者が分会組合員であることをその理由とするものであることは明らかであり、本件配転については前記のように業務上の必要性が認められ、また本件各配転についても、各債務者につき個々的にみれば人選の合理性が認められ、受忍限度を超える不利益を債権者らに被らせるものでもないことは、前記認定のとおりであるけれども、これを全体としてみれば、右認定のごとき分会所属組合員に対する不利益取扱いにあたるものというべきであり、右認定の不利益取扱いの諸事実の程度、態様等からすれば、本件各配転は、同時になされた班編成替えとあいまって、業務上の必要性にしゃ口、便乗し、債権者ら分会組合員に対し、本件配転の業務上の必要性に応じて分会組合員全員が全体として受忍すべき限度を、量的にも、質的にも超える不利益を被らせ、分会をさらに弱体化しようとの意図のもとになされた債権者ら全員に対する不利益取扱いとして、本件各配転全部が不当労働行為にあたるものというべきである。
2 分会の組合運営に対する支配介入(申請の理由3、(二)、(2)の事実)について
(一) 前記認定のとおり、本件各配転は労使慣行となっていた一連の手続にはなはだしく違背したものであり、従来慣行として、配転公表前に分会の意見を徴していたのを一方的に廃止してしまったものであって、債務者は右の一方的廃止につき、これを正当化するに足りるべき特段の事情は何らこれを主張、疎明していない。
そして、右の主張・疎明のないこと、前記認定の債権者ら分会組合員に対する不利益取扱いの諸事実及び前記のとおり昭和五八年四月二八日ころから、債務者と協調的な労組と非協調的な分会の二組合が併存していること及び弁論の全趣旨からすれば、本件各配転は分会を弱体化させる意図のもとになされたものと一応推認することができる。
(二) そうすると、本件配転は、債権者らに対する不利益取扱いとして不当労働行為にあたると同時に、分会に対する支配介入としても不当労働行為にあたるものというべきである。
五 結論
(一) 被保全権利について
以上のとおり、本件各配転は、発令におけるはなはだしい手続違背により、配転命令権行使の制限を逸脱し権利濫用または信義則違反にあたるものとして無効であり、また債権者らに対する関係で労働組合法七条一号にいう不利益取扱いにあたると同時に、債権者らが所属する分会に対する関係で同条三号にいう組合の運営に対する支配介入にあたる不当労働行為としても無効であるというべきであるから、債権者らには、別紙配転表記載の各新職場に就労するべき義務はないものというべきである。
(二) 保全の必要性について
(証拠略)、弁論の全趣旨によれば、債務者は、本件配転発令に際し、これに従わない者に対してはそれ相当の処分をする旨、前記労使協議会において言明したことが一応認められ、債権者らはいずれも本件各配転命令の効力を争っているのであるから、債務者から、例えば将来の指名解雇等に際し、そのことを理由として何時、如何なる不利益処分を受けるかも知れない不安定な地位におかれているものというべく、本案判決に至るまでの間、本件各配転命令に従う義務のないことを仮に定めておかなければ、著しい損害を被るおそれは大きいものというべきであるから、本件仮処分申請にはその必要性がある。
債権者らが債務者との間の暫定的合意により、昭和五八年一〇月一五日から本件各配転命令による新職場において就労していることは、本件記録中の同月一四日の本件審尋期日調書によって明らかであるが、右の事実は何ら右の保全の必要性の判断に影響を及ぼすものではない。
(三) そうすると、本件仮処分申請は理由があるから、これを認容し、申請費用につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山﨑杲)
(笠戸船渠株式会社組織表)
<省略>
別紙配転表
<省略>